資料(vol3) | 吊り天井(在来天井)の下地・仕上構成
はじめに
吊り天井の一つである在来天井(在来工法天井・軽天)の天井下地・仕上の一般的な構成・構造をご紹介いたします。
1.吊り天井とは
景観や機能性といった観点から、鉄骨造やRC造などでは、屋根や上層階の床、ぶどう棚(注1)からボルトを介して吊り下げる2重天井が一般的に用いられています。この吊り下げられる天井を「吊り天井」と呼んでおり、在来天井やシステム天井(注2)が該当します。「在来天井」は、「在来工法天井」「鋼製下地吊り天井」などの呼称があります。
木造の場合には、吊り木を用いた木材の吊り天井を「在来天井」と表す場合もありますが、ここでは鋼製下地(軽天・LGS)を使った天井下地のことを示します。
(注1)ぶどう棚とは、大型の設備機器を空間上部に置いたり、天井を吊るすために上部躯体から設けられる鉄骨。H形鋼や軽量形鋼が用いられる。ぶどう棚がもうけられる天井は、一定の高さがあるため、キャットウォークも設けて、点検等の作業ができるスペースを設ける場合もある。
(注2)システム天井とは、Tバーと呼ばれる逆T字型のバー材を井桁に組み、逆T字の上に天井パネルを置く仕様の天井のこと。グリッド型とライン型があり、パネルを固定しないため、取り外しが容易で、レイアウト変更の多い用途(主にオフィス)で用いられている。
2.在来工法天井の構成
在来天井は、「下地材」(LGS・軽量鉄骨天井下地・軽天下地)と「仕上げ材」に分けられます。下地は、上層階などの躯体からボルトを吊り下げ、吊り下げた部分に、野縁受け・野縁と呼ばれる長尺材を井桁に組むことで構成されています。そこに、仕様に応じた仕上げ材をビスで固定することで、普段、目にしている天井が完成します。同時に、部屋用途に応じた照明、空調、消防設備等が取り付けられていきます。
ここでは、JIS規格(JIS A 6517)や標準仕様書に記載されている部材を使用した天井の構成要素を組み方順にご紹介します。
・吊元(躯体)
「吊元」とは、天井が吊り下げられる親元のことで、建物の骨組み・躯体である鉄骨や床スラブ、また、ぶどう棚がそれにあたります。天井の重量も加味して検討・設計されています。
※TOP写真では、吊元のC形鋼をH形鋼下に固定する金具として、ハリシタピースロックを使用していますが、参考にしないでください。あくまでも正しい使い方は間仕切壁のピース固定金具です。施工要領書に則り、使用条件の範囲で、ご利用ください。拡大解釈をしての使用はご遠慮ください。
・吊金具・吊元金具
天井などに用いられる 「吊金具・吊元金具」とは、吊元と吊りボルトを接合する部分にあたります。一般的には、上層の床スラブ(コンクリート)に事前に埋め込んでおいた鋼製インサート(雌ネジ)が吊元の接合金具として使用されています。床スラブの型枠に鋼製デッキを用いる場合には、あと施工タイプであるデッキハンガー(上部写真左)を用いる場合もあります。一方、吊り長さが長くなる場合などには、H形鋼やC形鋼と呼ばれる鋼材を間に設けて(ぶどう棚)、そこに取り付け可能なC・H形鋼用 吊元金具を接合部材として用いています(上部写真右)。通常、縦横900mm間隔(@900)で取り付けます。
・吊りボルト・ナット
在来天井などに用いられる「吊りボルト」とは、吊元接合金具を介して、吊元に接合されるもので、天井面を構成する部材を吊り下げ、また、天井の長さ(天井懐)を調整するための部材にあたります。
昔は、両ねじボルト(丸棒の端部にねじ山があるボルト)が使われていましたが、近年は、全ねじボルトと呼ばれる全長にねじ山があるボルトが使われています。
一般的な規格は、インチねじの規格であるW3/8{一般呼称:3分(さんぶ))}になります。風圧など大きな荷重を受ける場合には、ボルトの弾性座屈がおきないよう、角パイプ補強(□-19x19x1.2t)やW1/2ボルト{4分(よんぶ))}が使用されています。通常、900mmピッチ(@900)で設置します。
全ねじボルトの在庫長さは@50mm(例.900,950,1000mm)が一般的です。
・ハンガー
在来天井における「ハンガー」とは、吊りボルトから野縁受けと呼ばれる長尺材を固定するための金具です。吊りボルトに取り付けたナットでハンガーを挟み込み、締め付けることで固定します。(昔は溶接固定が主流でしたが、現在は無溶接工法が採用されています。)
ハンガーには、以下のような種類があります。
・野縁受けを簡単にはめ込むことが可能なワンタッチタイプ
・風圧による鉛直方向への引張・圧縮力を受けても外れない耐風圧タイプ
・振動の伝達を低減する防振タイプ
ハンガーを挟み込むナットを上下に動かすことで、天井の水平レベルを調整しています。水平レベルの調整タイミングは、野縁まで下地材が組み終わった時点で行われます。
・野縁受け(のぶちうけ)
在来天井における「野縁受け」とは、以後に説明する「野縁」を支え、ハンガーに固定される材で、天井面を構成する部材(天井面構成部材)の親であることから、「親バー」と呼ばれています。断面形状がC型をしていることから「Cチャンネル」・「Cチャン」とも呼ばれています。
主な規格はC-38(シーサンパチ)と呼ばれるC-38x12の外形をした材です。
・19形 (CC-19:C-38x12x1.2t)
・25形 (CC-25:C-38x12x1.6t)
・一般材 (C-38x12x1.0t程度)
・SUS材
その他の断面として、C-40x20x1.6t、C-25x10x1.2tなどがあり、標準仕様書で決められている他、たわみや耐久性などの条件により、材質・断面が選定されます。
吊りボルトのピッチにより野縁受けのピッチも定まります。通常は、吊りボルトと同じ900mm間隔(@900)で取り付けられています。
・クリップ(野縁受け-野縁 接合金具)
在来天井の「クリップ」とは、野縁受けの下側に、直交するように野縁を取り付けるための接合金具のことです。野縁受け、野縁の種類、また、要求性能に応じた様々な形状があります。一般的には、手で折り曲げることが可能な野縁受けに片掛けするクリップ(写真左:JIS 19形用に使用する板厚0.6mmクリップ)が用いられていますが、地震時に外れる・プール天井使用時に外れるといった被害事例も報告されており、近年では、板厚を厚くし、ボルトやビスなどで外れにくくした形状・緊結性能を有するクリップ(写真右)を選ぶ場合が増えています。「当社のクリップの緊結性能」は、衝撃試験により確認しています。
天井の耐震仕様としてクリップに水平耐力が求められる場合、ハグロックなどの付属金具を取り付けて対応します。
・野縁(のぶち)
在来天井の「野縁」とは、クリップを介して野縁受けに直交するように固定される長尺材のことで、天井パネル・天井ボードを固定するための部材にあたります。断面形状がM字をしていることから「Mバー」とも呼ばれています。また、親バー(親)の下に固定されるため、子と呼ばれる場合もあります。
名称 | 寸法 | 幅 | 高さ | 板厚 | 材質 |
---|---|---|---|---|---|
CS-19 | 25x19x0.5t | 25 | 19 | 0.5t | SGCC Z12以上 |
CW-19 | 50x19x0.5t | 50 | 19 | ||
CS-25 | 25x25x0.5t | 25 | 25 | ||
CW-25 | 50x25x0.5t | 50 | 25 | 0.5t (一部メーカー0.8tあり) |
・Mバーの取付間隔
直張:255,303ピッチ(@255,303)、下地張あり:360ピッチ(@360)※耐震・耐風圧天井の場合は、強度に応じて@303にする場合もある。
同一の天井に、同一高さのSバー(エスバー・シングルバー)とWバー(ダブルバー)を両方用いる場合と、Wバーのみ用いる場合があります。天井パネルの継ぎ目では、互いのパネル端部を同じMバーにビス固定するため、Wバーが用いられ、天井パネルの中間部にはSバーが用いられます。
その他、角スタッドやC形鋼を野縁として用いる場合もあります。
・天井ボード(仕上げ材)
仕上げ面として現れる「天井ボード」は、規格は様々ですが、例えば、910x1820mm、455x910mmといったサイズが使われています。材質は、石膏ボード、岩綿(がんめん)吸音板(ロックウール吸音板)が主に使われています。屋外などでは金属パネル(アルミなど)を取り付ける場合もあります。
天井ボードは、野縁にビスで固定されます。ボード間の接合部には、お互いのボード端部を野縁に固定する必要があるため、上記で記したWバー野縁が用いられています。天井ボードが2層、3層に重なる場合には、2層目以降を、接着剤により固定する方法が用いられています(仮固定としてステープルを使用)。ビスは150,200,250mmといった間隔が一般的です。ボード材の割付も重要になってきます。捨張は突きつけ、仕上げは、突きつけ、または目透かしで処理されています。天井の仕上げ材・割付が決まることで、それに伴って、先に述べた天井下地材(親と子の向きなど)が定まります(一般的に短手方向を親(野縁受け)にすることが多いです)。
化粧タイプのボード(写真)は、そのまま仕上げとして利用されますが、通常の石膏ボードには、化粧をする必要があります。化粧の種類としては、塗装とクロスがあります。化粧により室内空間の表情は大きく変わっていきます。
このようにボードまで組まれた天井の重量は、一般的には~20kg/m2程度です(天井板の種類・層数により大きく異なる)。用途によっては60kg/m2を超える場合もあります(音楽ホールなど)。
ルーバー仕上げの場合もあります。
・ジョイント(長尺材の連結金具)
上記で示した長尺材(野縁受け、野縁)は、4m・5mなどの定尺で工事現場に搬入されます。区画された一つの天井面積が大きければ、定尺材を繋げる必要があります。そこで使われるのが「ジョイント金具」です。LG用・野縁受け用、野縁用、吊ボルト連結用の長ナットなどがあります。それぞれの断面ごとにジョイントがあります。
ジョイント部が一列に集中しないよう、隣り合う定尺材をずらし千鳥配置になるよう配置します。
・水平振れ止め(水平補剛材)
「水平振れ止め材」とは、吊りボルト同士を連結しボルトを拘束するために補強する材のことです。また、ボルトと材を固定する金具を「水平振れ止め用金具」と呼んでいます。標準仕様書(1)では、天井懐が1.5m以上の場合、特記がなければ、水平補強は縦横方向に1.8m程度の間隔で配置し、補強材の断面は、C-19x10x1.2t以上とされています(天井懐が3m以下に限る)。水平材(水平補剛材)に耐震ブレースを固定する場合には、力が加わった時に横滑りが生じないようビスなどで緊結できる金具(例:パワーホルダー)が望まれます。
・斜め振れ止め(ブレース)
「斜め振れ止め」は、上側は吊ボルト等と、下側は野縁受け等に固定することで、天井の水平方向の動きを拘束します。標準仕様書(1)では、天井懐が1.5m以上の場合、特記がなければ、斜め補強は縦横方向に3.6m程度の間隔で配置し、補強材の断面は、C-19x10x1.2t以上とされています(天井懐が3m以下に限る)。また、近年は、地震などの振動による横揺れに抵抗する耐震補強材として、特定天井だけでなく安全性が重視される天井に取り付けられています(ブレース材)。専用金具を「斜め振れ止め材」の両端に取付け補強箇所に固定します。耐震用として、高い強度、面外方向の力に対しても外れない形状の金具が選ばれています。
・クロス金具/交差金具
「クロス金具」は、野縁受けの上に、直交方向に、追加野縁受けを設置する場合に用いる金具です。追加野縁受けは、照明器具などの設備機器を吊るす場合に設けます。当社製品としては、野縁受けの種類や固定方法で複数のラインアップがあります。
使用例は、開口補強の記事をご覧ください。
・耐震対策(補強・落下防止)
天井落下による被害を防ぐために、
・接合部を既存のものより強固にする。(補強)
・外れても地面まで落ちないよう、ネット・ワイヤーなどのフェールセーフ機構を設ける。(落下防止)
・地震時の天井に作用する水平力を躯体に伝達する機構を設ける。(ブレース設計・壁設計)
・壁、柱と天井にクリアランスを設ける。(挙動の異なる壁と天井の縁を切る)
といった対応策があります。
対策方針によって、接合部の強度増加や、外れ防止機能を付加する金具が選定されています。
既存物件では適した金具がない場合もあり、特注でのご依頼もあります。(例えば、幅の大きな鋼製見切り材)
3.まとめ
ごく一般的な「在来天井の構成」の一部をご紹介しました。
「吊り天井」には、「下がり壁」、「斜め天井」、「アーチ・ドーム天井」といった意匠性、設備機器を設けるための「開口と補強」、「風圧」、「耐震性」、「遮音性」、「耐久性」、「重量」、「間仕切壁との納まり」など考慮するべきものがあります。実際の現場では、「標準仕様書」、「図面」、「特記仕様書」などに応じて部材を選定し、天井が作られ、普段利用している空間が形成されています。
参考図書:(1) 公共建築工事標準仕様書(建築工事編)平成31年版,国土交通省
※2019/10/02時点での情報になります。
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