
・吊り金具を母材などで分類
・脱落対策や注意点の説明
作成日:2020年05月28日(令和2年)
最終更新日:2025年05月13日(令和7年)
1.はじめに
吊り天井を形成するには、躯体などから吊りボルトを支持するための部材が必要になります。S造(鉄骨造)やRC造(鉄筋コンクリート造)の上階床の多くは鉄筋コンクリートとなっており、このような構造では『鋼製インサート』や『デッキハンガー』が用いられます。一方、ぶどう棚などの形鋼から吊るす場合には、C形鋼※1・H形鋼といった形鋼用の『吊元金具』を使用する必要があります。
ここでは、形鋼用の吊り金具(以下、吊元金具)についてご紹介します。
※1 このページにおいて、C形鋼とはリップ付き溝形鋼のことを表す。
2.吊元金具を使用する環境
吊元金具は、ぶどう棚(躯体から吊り下げられた鉄骨枠)・鉄骨母屋・親梁・小梁から吊りボルトを吊るす場合に使用されます。
ぶどう棚は、大型の空調設備を躯体下に固定するなど、天井裏に一定のスペース確保が必要な場合や、天井懐(吊り長さ)が極端に長くなることを避ける目的で鉄骨を中間に設ける場合に用いられます。
3.規格・仕様など
3.1 吊元金具の規格・仕様
屋内に用いる鋼製下地材(天井・壁)についての規格(JIS A 6517)における天井下地材付属金物とは、つりボルト、ナット、ハンガー、クリップ、各ジョイント(S野縁、W野縁、野縁受け)の7種類です。【吊元金具】の記載はありません。
標準仕様書(1)には、『吊りボルトの躯体への取付けは、(省略)、鉄骨の場合、溶接等の適切な工法を用いて取り付ける。 』とあります。
3.2 母材の種類


当社の吊元金具が対応している母材は、以下の2種類に分けられます。溝形鋼用の金具はありません。
①リップを有するC形鋼(JIS G 3350:一般構造用軽量形鋼)
②H形鋼・アングル・Z形鋼など(以下、H形鋼等)(JIS G 3192:熱間圧延形鋼など)
4. 取付例
母材ごとの当社製品の取付例です。
4.1 C形鋼


吊りボルト締付タイプは、吊元に登らずに取付けが可能です。吊りボルトの締付トルクにより固定されるため、地震時に横滑りや緩みが生じる可能性があります。緊結のためにC形鋼にビス固定可能な製品もありますが、水平試験は実施していません。
ビス固定タイプは、吊元に登って施工する金具です。ビスの引抜き力、せん断力で強度負担ができるため、防災センターなど安全性が求められる用途の天井でご利用いただけます。耐震ブレースの固定も可能です。
吊元アングルの場合、曲げによるビスの引抜き耐力は母材板厚ごとに別途考慮が必要です。
4.2 H形鋼


H形鋼等の吊元金具は、フランジ端部に固定します。施工・用途別に示します。
吊りボルト締付タイプは、吊元に登らずに取付け可能です。大きな締付力が入らないため、横揺れに対し滑りやすいです。耐震用途では使用しないでください。
六角ボルト締付タイプは、組込まれた六角ボルトでフランジ面に固定できるため一定の摩擦力が期待できます。
耐震・脱落防止タイプには、耐震・脱落防止の用途があります。H形鋼等にビス穴を設ける場合、母材の欠損が許容されているか、事前確認が必要です。
5.強度種類
当社では、社内にて接合部の強度試験を実施し、許容静荷重・許容耐力をカタログに記載しています。
5.1 強度種類と評価方法

吊元金具の強度は、
①鉛直方向のみ
②鉛直方向+水平2方向
の2種類に分けられます。
耐震ブレースを取り付けたい場合には、水平方向の許容値が記載してある製品をご利用ください。
水平方向の評価は『建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説』の方法を参考にしています。
5.2 下部リップへの固定


C形鋼の下部リップに固定する場合、断面形状によっては母材の局部的な変形が起きるおそれがあります。母材の板厚が薄い際はご注意ください。右画像はC-100×1.6tでの試験状況です。(※1.6tは通常は使用しません。また、L250と材が短い条件での試験です。)
5.3 天井裏作業における金具変形
石膏ボード(PB9.5)2層張における吊り天井重量は20kgf/m2弱です。そこに、設備の入替等で作業者(例えば70kgf)が天井に乗った場合には、吊元1か所に固定荷重と積載荷重(+衝撃荷重)が加わるため、製品許容値を超える場合があります(例:製品許容静荷重40kgf/ヶ<70kgf/人)。目視で判別できなくても、金具によっては塑性変形する可能性があります。塑性変形した状態で地震力が加わると落下する恐れが高まります。
施工後に天井裏での作業が想定される場合には、大きな許容値・外れにくいタイプの金具をご検討ください。吊元金具だけでなく、ハンガー、クリップなど金具全般での検討が必要です。また、キャットウォークを設けたり、吊りボルトに足場板を固定するなど、天井下地に直接乗ることのないような対策方法もあります。
6. 既存天井の対策


当社の吊元金具の多くは鉛直方向のみ許容値を掲載しています。事後的に耐震・脱落対策をしたい場合の方法をご紹介します。
特殊LGフック補強金具 :当社の特殊LGフックに使用可能です。
LGキャッチャー :他社製品にも使用可能です。寸法確認必須・3分専用。水平方向の検証はしていません。
H鋼吊元ロック専用補助金具:H鋼吊元ロックに取り付け可能な脱落防止用の金具です。
7. 施工上の注意点

①使用するビス径に注意
2.3mm以上の母材にφ4ビスの使用:電動工具で締め付けると破断する場合があります。
破断した場合、金具の位置をずらして再固定する必要があるため、径の太いビス(5mm)を推奨しています。
②締め加減に注意
吊りボルト締付タイプの場合、金具形状によっては大きなトルクが入力されません(トルク2Nm以下あり)。
電動工具で過度な締め付けをすると、画像のように金具が大きく変形します。締め加減にご注意ください。
なお、吊った際にボルトがC形鋼から離れる(離間荷重)ことのないよう一定の締付トルクは必要になります。
8. まとめ
吊元金具について、基本的な内容をご紹介しました。対象となる吊り天井に合わせて最適な製品をご利用ください。
個別の製品については、製品情報ページやカタログでご確認ください。
現場の状況に適した製品がない場合には、特注生産も可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
参考図書:(1)公共建築工事標準仕様書(建築工事編)平成31年版,国土交通省
※掲載製品は、廃番やリニューアルする場合があります。最新情報はWEBカタログよりご確認ください。
※掲載画像は、2020年時点のものです。
※当ページに掲載されている文章・図・画像の無断使用・無断掲載は禁止いたします。お控えください。